2005年2月17日木曜日

ソル de スリ part2

パトカーの中は二人の警官と私。
懸念した通り、二人とも英語は話せない。
Japón ハポンJapón ハポン、Tokio トキョウと連呼するだけ。
ソルは場所がら色んな国のツーリストが集まるんだから、英語くらい話せる奴を配置しろよ、
と思う間もなく警察署に到着。余り大きくはない。

汚い部屋に通され、書類に記入をする。
英語の出来る人間をお願いすると、確かに英語は出来るが警官としては
経験のなさそうな若造君が登場。
掏られた状況を話し3人組で2人は財布を持って逃走。
財布の中には10万ペセタ(約8万円)のキャッシュとAMEXとMASTERの
クレジットカードが入っていた。

説明が終るといつまでマドリードにいるか尋ねられた。
「明日の朝の便で日本に帰る。」と告げると、
「わかった、何かわかったらホテルに連絡する。」で、お仕舞いにしたいムードがムンムン。

こっちは「冗談じゃない、犯人一味の一人と思われる人間を折角捕まえたのに
これで終わりはないだろ。そいつを問い詰めれば残りの二人の居場所だって突き止められる
可能性があるだろう。」と食い下がる。

それでも、何かわかったら連絡すると繰り返すだけの彼。
「失礼だが、君じゃ拉致が明かないから上席と話したい。」と告げると、
上席は英語が出来ないと言う。
「じゃあ、君が同席して通訳をすればいいじゃないか。」

渋々応じた彼は一旦姿を消し、10分程してから上席と現れた。
上席は映画「カサブランカ」に出てくる警察署長にちょっと似てた。
「捕まえた彼を辿れば、共犯者がわかると思うが。
彼は前科はあるのか。
彼は今後どのような扱いを受けるのか。等々」

「彼の前科については調査中、共犯者との関わり合いについては取調べ中、
今晩一晩は警察に拘留されるだろう。彼はモロッコ出身。」

やっぱりカサブランカじゃないか(笑)

しかしどう見ても、この男もやる気がない。
「このハポンは何でこんなに熱くなってるんだ、財布なんか出てくる筈ないだろ。
いい加減諦めて帰れよ。」という空気が充満していた。
納得はいかなかったが空気を読んだ私は、
「一文無しでホテルに戻ることもできないが。」と言ったら、
「心配するな、パトカーで送らせる。」
私から開放されるなら喜んでお送りしますって感じだった。

パトカーでホテルに到着すると、顔見知りのドアマンが慌てた様子でドアを開けた。
警官と何かしきりに話して事情を飲み込んだ様子だった。
気の毒そうな顔をした彼はフロントまで一緒に行って、フロントの人間にも説明していた。
ホテルの支払いはミニバーやランドリーを含めて、本店が一括して行うから彼らにリスクは無い。

部屋に戻った私は、クレジットカード会社に電話した。
先ずはAMEX、当然ながら英語でことが済む。
あの警察の後だからそれだけで気持ちいい。
カードは既に使われていたが、国際電話を2度架けているだけで利用額は約4000円。
オペレーターはこの分は免責され、直ちにカードを利用不可能にする。
万が一不正使用があっても、私は免責されると断言してくれた。
加えて、オフィスに来てくれれば2時間程度でカードの再発行が可能だと言ってくれた。
流石世界で初めてトラベラーズ・チェックを発行したAMEX、旅行者に優しい。
まあ、その分高い年会費を支払わされているが・・・。

次は、MASTER、マドリードのオフィスを探すが要領を得ず、
最終的には日本へのフリーダイアルを架ける事になった。

ガ~ン!既にカードを使って50万弱のパソコンが買われていた。
やはりプロの仕事だった。
この分が免責されるかどうかは日本に帰国後、然るべく申請手続きをしないと分からないと
言われた。
不正使用されたショップに連絡して事実を伝え、警察に通報させることを提案したが
曖昧な返事しか返って来なかった。
警察で発行してもらったドキュメントがあるとは言え、免責されないリスクも考えると
流石に落ち込んだ。

その夜は私が最も仲良くしていたミラノ支店のチーフディーラーとディナーの約束をしていた。
よせばいいのに、4日前にも一緒に食事をしてその時は彼が支払い、
その日は私が払う約束になっていたのだ。
ホテルのセーフティ・ボックスにはパスポート、航空券の他に日本円が6万円位あったので、
急いで両替所(Canbio)に行ってペセタに両替した。
普段は銀行でスタッフの特権でノーマージンで両替していた。
おまけに為替取引では数銭のレート差にも拘る私には何とも屈辱的なレートだった。

ディナーの時に、彼にスリ事件の顛末を話した。
彼は犯人の一人を私が自分で捕まえたことに大層驚き、
同時に怪我等しなかったことを喜んでいた。
あと、プライベートな時は、なるべく貧乏たらしい服装にすべきだとも言った。
そのレストランは私が主張して私が払ったが、その後のバルbar巡りは彼が払ってくれた。

日本に戻り、支店長に頭ポリポリ状態でスリにあったことを説明した。
数時間後、支店長に呼ばれ、盗まれたキャッシュ(約8万円)は他の出張の経費と一緒に
会社に請求するように言われた。
マドリードに出張に行かなければ会わなかった筈の被害だというのが、彼の論理だった。

本店のディーラーにスリの一件を話したら、もう既に知っていた。
ミラノの彼から聞いたらしい。
話は私が被害にあったことより、私が犯人を一撃した「カンフー・ファイター」ということで
盛り上がっていた。

懸念されたMASTERの方も最終的にはすべて免責され、経済的なダメージは
気に入っていた財布そのものだけということで終った。

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