2005年4月9日土曜日

野村死すとも名画は死なず~『砂の器』~

映画監督の野村芳太郎氏が85歳で亡くなった。

彼の作品『砂の器』はナリポンの邦画ベスト3に確実に入る。

初上映された頃、私は学生で年間100本近い映画を観ていたが殆どは洋画であった。
松本清張は石川達三と並んで当事の好きな作家だったのと、映画評もベタ誉めだったので、
珍しく名画座ではなく邦画を観に行ったのである。

ちょうど、長嶋茂雄が現役を引退し、涙も涸れていた頃だが、この映画は素直に泣けた。

あれから30年、もう何十回観ただろうか、そしてその都度必ず泣かされた。
実は、今日日記に書こうと思い、ヤンキース戦のあと再び観た。
で、やっぱり泣けた。

全編143分の映画だが、最初の約90分とその後では構成がまるで違う。
前半は事件の真相を追う、丹波哲郎(今西刑事)が日本全国を駆け回る。

後半がこの映画の醍醐味だ。
よく言われることだが、後半は人形浄瑠璃の手法を採用している。

捜査会議で情感を込めて語る丹波が浄瑠璃語り、加藤剛演じる和賀英良が三味線弾き、
加藤嘉 (本浦千代吉)春田和秀 (本浦秀夫)親子が人形役。

この3つの役がみごとに噛み合っているが、人形役の二人が出色だ。

放浪を続ける親子のシーンは、四季を描くために実際に1年を費やしたといわれる。
各地でこの親子が虐待を受ける場面を、音楽「宿命」が盛り上げる。
人形役の二人は殆ど台詞がない。
息子は眼差しですべての表情を表し、父親も限られた言葉が故に逆にその言葉が重い。

本浦千代吉が施設に収容されるために、馬の轢く荷車にのせられて駐在所の前を通る。
秀夫がそれをじっと見つめている、そして終には、父親のいる駅を目指して懸命に走る。
抱き合う親子を見て、緒方拳(三木巡査)が帽子をかぶりなおす。
バックには、哀・哀・哀の音楽。

ナリポン的ベストシーンというかクライマックスは今西が生存していた本浦千代吉に面会にいき、
成長した秀夫、即ち和賀英良の写真を見せる場面だ。

うめき声というか嗚咽の後に、千代吉が言う一言。
『そ、そ、そんなしと、すらねぇぇ』

丹波哲郎も霊界を知る前(笑)で、見事な演技をしている。
若い刑事役で出ている、森田健作も例の「よしかわくぅ~ん」調の裏返った声で好演している。
千葉知事選の前に、この砂の器を見せたら、6千票くらい簡単にひっくり返っていたかも(笑)

ところで、捜査一課長の内藤武敏が、和賀の人生を「じゅんぷうまんぽ」と言うのはわざとか・・・(^。^)

「えっ、砂の器?知ってるわよ。中居君がやったやつでしょ。」
と言う人には、是非一度この30年前の一流の映画を観て頂きたい。

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