ナリポンは、マリナーズ戦の第4戦を落とした時に、固まった。
直接対決のアスレチックス戦の第1戦、0-12で‘放棄試合’をした時は、凍てついた。
指揮官も選手達も、我々ファン達もこの連敗でさらに緊張した。
そんな空気の中、先発登板したのは、
ナリポンが何度も‘推奨銘柄’として取り上げたスモール投手だ。
本来先発予定だった、ムッシーナは投手としては球界最高年俸の19百万ドル。
その代役のスモールは月収13000ドル。
年俸ベースにすると、ムッシーナの約120分の1という‘超低位株’だ。
33歳で、マイナー暮らしが続き、そろそろ自分の引退を考えていたそうだ。
それが、先発投手難の中、メジャーに昇格し7月20日に先発しいきなり勝利。
今日の試合まで、先発、中継ぎで9試合に登板し、5勝0敗だ。
‘スモールは勝ち運を持っている。こういう選手は運が尽きるまで使いまくれ’
試合が始まった。
名前はスモールだが、実は身長は196cmもある。
独特のしゃくれたアゴが今日も頑張っている。
試合前の投球練習での調子はイマイチだったと試合後話しているように、
立ち上がりは、やや難があったが、粘り強く投げてピンチを切り抜ける。
3回表にヤンキースのチャンスが巡って来る。
1アウト1,3塁でバッターは松井だ。
いわゆる‘最低限の仕事’が要求される場面だ。
松井の調子がいい時だったら、
‘打点を稼ぐにはオイシイ場面’だなと、安心して期待できるのだが、今は違う。
ゲッツーで無得点だと‘戦犯松井’になってしまうな。
結果は左中間に文句なしの犠牲フライ、取り敢えずホッとした。
その後、両投手がきっちりと投げ合い、お互い無得点が続く。
何しろ、勝ちに飢えているから、1点リードしていながら、気分はイーブン以下だ。
7回、ヤンキースに再びチャンスが巡ってくる。
1アウト2,3塁を作ると、敵はジーターを歩かせて満塁策を取る。
バッターは松井だ。
またかよ、ここで引っ掛けてゲッツーだと‘戦犯松井’どころか、
試合の流れが完全に向こうにいってしまいそうだ。
カキーーーン!
打った瞬間、センターへ抜けると思ったが、セカンドがうまく回り込みトス。
‘えっーーーーー、ゲッツかよ’
全力疾走していた、松井は1塁セーフ。
私はテレビの前で思わず拍手をしていた。
拍手をするのも何日振りだろう。
1塁上の松井の顔も久々に嬉しそうで、コーチャーのホワイト相手に饒舌だった。
ゲッツーにならずに、貴重な追加点をあげることができたことにホッとし、
或いは、自分自身の100打点達成を知っていたのだろうか。
シェフが歩き、2アウト満塁でエー・ロッド。
解説の小早川がこういう場面で打つのが4番の仕事だとしきりに強調する。
いつものナリポンなら
‘ここで裏切るのがアン・クラッチのエー・ロッド’とか突っ込みたくなるのだが、
今日はひたすら打ってくれと祈った。
追い込まれながらも、ライト前に2点タイムリー。
私は再びテレビの前で拍手をしていた。
カメラは、ベンチの中でガッツポーズをつくり打ったエー・ロッドを称えるように
指差すトーリ監督を捉えていた。
トーリが試合途中であんなポーズをするのは極めて珍しい。
2点のリードじゃ不安なところで、2アウトでさらに2点を追加できたのが
余程嬉しかったのだろう。
あの2点で、何か過去2日間の‘呪縛’から解き放たれたようだった。
それはジオンビの打撃にも反映し、なんとダメ押しの3ランHRだ。
先発のスモールは結局9回を完封した。
三振は3個だけだったが、最後の打者に対しては三振を狙ったそうだ。
三振を取れば、ウィニングボールは自分の物になる。
試合後、エー・ロッドに握手をされ、ハグもされたスモールは、
‘あんな選手(スーパースター)にハグされて、
どんな気分だったかなんて説明できないよ’
この記事を読んで、私は今日3度目の拍手を地味にした。
マイナーでの登板イニングが1600というジャーニー・マンからすれば、
エー・ロッドのような超メジャーな選手と一緒にプレイし、祝福されることは素直に
夢心地なのだろう。
今日の勝利で、6勝0敗。
ジョンソンのプラス5を上回り、ヤンキースの中でトップの貯金6だ。
今季初めて、スタジアムで観戦していた、奥さんと2人の子供達の目には
‘一流のメジャー・リーガー’に映ったに違いない。
恐らく、契約上、いくら勝っても活躍しても、インセンティヴはないだろう。
オーナーがポケットからほんの少しだけ、ご褒美をあげてやってもいいんじゃないか。
2005年9月4日日曜日
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